上がったハードルを高々と越えていく、もうとにかく劇場で見ろ。「Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット Paladin; Agateram」感想

 

toratugumi.hatenablog.jp

 

というわけでね、早速見てまいりました。(半年ぶり二回目)
ネタバレ入ると思うのでまだ見てない人は見てから読んだほうがいいかもしれないです。
できればフラットな状態で見てほしいから……。
 

 

 

圧巻のアクションシーンのフルコース

 
全編約90分のうち2/3がバトルシーンというすごい尺の割り振り方になっているのですが、どのアクションシーンもすごい。
特にそれぞれのバトルごとにアニメーターさんが一人でコンテ演出原画を担当するという手法が取られており(パンフ他監督Twitterより)バトルごとにアニメーターさんの特色が強く出ています。もはや暴力です。
 
言葉と徒手で力強く、とにかく力強く説き伏せるランスロットvsマシュ戦、
良い意味での外連味が怒涛で押し寄せるアグラヴェインvsランスロット戦、
他の円卓と違って文字通り花のあるオリジナル展開の三蔵ちゃんvsモードレッド戦、
暗殺者と弓兵双方のトリッキーな戦い方で画面展開が全く読めないハサン二人vsトリスタン戦、
長尺で泥臭すぎる暴力と感情がぶつかり合うガウェインvsベディヴィエール戦。
 
それぞれがこの映画のメインディッシュは俺だぜ!!と言わんばかりの存在感。
特に最後に並べた4つは、崩壊するキャメロットの城の中でシームレスに同時展開するため圧倒されっぱなしの30分です。
 
細かく突っ込んで話したい部分は尽きないのですが、個人的に特に印象に残ったのがガウェインvsベディヴィエール戦。
前編の戦闘でもそういった描写はありましたが、聖剣を持ち戦況有利のギフトを持っているガウェインに対して本来なら渡り合うことができないベディヴィエール。限界の状況で聖剣を落としたガウェインが、瓦礫の下に埋もれても落ちているただの剣を掴んででもベディヴィエールを先に行かせまいと阻むその執念。その辺の石で殴りかかるわ、果ては首をしめにいくわ、泥仕合です。怖すぎます。今までゴールデンレトリバーだと思ってたのに土佐犬だった。
ガウェインが朽ちると共に日が沈んでくカットの美しさと虚しさは数あるカットの中でも実に印象深いカットでした……。
 
 

ベディヴィエールという騎士とスミレの花

 

f:id:toratugumi293:20210519222823p:plain

劇場版 「FGOキャメロット 後編」公開記念PVより
 
メインビジュアルにもあるピンク色の可愛らしいお花なんですが、見る前だから断定が出来なかったものの作中でも荒野で花を探すという描写の中で薄紫またはピンクの花を摘む描写がありまして。恐らく同一の花だと考えられるのでその前提で書きます。
アプリ版を舐めるようにプレイした皆さんならご存知だと思うんですが、ゲーム第一部最終章である終局特異点・冠位時間神殿ソロモンでランサーアルトリア(獅子王ではない)がベディヴィエールを「菫色の銀騎士」と呼びかけるシーンがあります。
この「菫色の銀騎士」の着想がどこから来てるのかは正直配信四年たってる未だにわからないのですが、花言葉から来ているのではないかとも言われたり(花言葉は小さな愛、誠実、忠実、紫のスミレ、誠実、愛、等々)
 
花というのは華やかに咲いた後、枯れて種を残しまた次の年に花を咲かせるという点でメタ的に輪廻や死と再生の象徴になりやすく、この映画でもそういった意図が少なからず含まれていたように思います。
余談ですが終局特異点の舞台でもこの要素が舞台オリジナルとして埋め込まれており、たいへん感動的に仕上がっていたのでよければアニメの前に見てみて欲しい。最近円盤が出たんだ。
 
正直ここまで擦られる要因がわからず自分でも調べて回ったのですが、これ!といった理由が見当たらず……イギリスの詩歌では春の季語として人気なんですが、ヨーロッパのスミレと日本のスミレは違う種類らしいというのもあり謎が謎を呼んでいます。私の中で。
英語でスミレを表すVioletは謙虚さの例えとして使われるそうなので、そういった印象も入ってるのかなという感じ。
またアーサー王やイギリスの本を読むときは少し気にして探してみます。き、気になるよぉ……なんでこんなに擦ってるんだ……。
 
あんまり関係無いですが探してる過程で見つけたワーズワースのスミレに関する詩がエモかったので引用シェア決めます。
 
 
  人里はなれて静かに暮らす
  ダウの泉の傍らで
  称賛されることもなく
  愛されることもなく
 
  岩畳に咲いた一輪のスミレ
  人の目をはばかるように
  星のような清楚な姿は
  ひそかな輝きを放っていた
 
  人知れず生きたルーシーは
  誰も知らないままに死んだ
  彼女は墓の中で眠る
  私にとってかけがいのない人
 

 

ルーシーの歌:ウィリアム・ワーズワース

 

「円卓の騎士」の物語

 
既プレイオタクはみんな擦ってると思うんですけどやっぱりED後のアグラヴェインと獅子王のやりとりをしっかりやってくれた点は本当に監督に感謝が尽きません。パンフレットによると、尺が足りなくて削る案もあったそうです。
 
今回の映画の宣伝で、主演でもありFGO原作ゲームのファンでもある川澄綾子さん、島崎信長さんが「この映画は、円卓の映画です」という事をアピールしていたのですが、ベディヴィエールの映画ではなく円卓の映画と紹介していた理由が見てようやくしっくりきました。
先述した通り、今回の映画は大半がバトルなのですが、そのメインにあたるアクションシーンの中や、その合間合間の些細なカットで、敵である円卓の騎士のキャラクター性を映画内でも補完しているという妙技をかましています。
 
 

f:id:toratugumi293:20210519224113p:plain

劇場版 「FGOキャメロット 後編」公開記念PVより
 
例えばここのガウェインのカット。ベディヴィエールと戦っている最中の、確か中盤くらいで使われているカットです。低血圧の人の寝起きですらこんなに苛立たしげな顔はしないんですが、旧知の仲であるかつての友と闘っているとはいえなぜそんなに憎々しげに見るのか?という点です。
まず理由の一つとして、ガウェインが消える直前に「騎士王の最後に伴する事ができたベディヴィエールが羨ましい」とこぼしながら消えていくので単純にこれがあげられます。
 
余談ですがゲームだとワダアルコさんの立ち絵が美しすぎて自分がプレイしたとき、そこまでの圧は感じ無かったのですけども、舞台版のFGO STAGEにおけるガウェインはこの件やランスロットに対してとても感情が強く出ている演出です。前編の監督が参考にしたと話しており、六章をどうやって3時間の尺に収めるかという抑揚の付け方がフレキシブルで面白いので大変オススメです。
 
そして映画のガウェインがバチギレる理由がこの映画限定でもうひとつあります。ご覧になった方でパンフレットがお手元にある方は監督のインタビューを見たほうがいいです。
これに関して要約しますと「映画のベディヴィエールはガウェインと戦う時点で円卓を手に掛けていない。それなのに同じ円卓の騎士を殺した自分たちを越えて、獅子王を阻むという甘っちょろいことを言ってるのか。正義のために、かつての仲間を殺せるか、という覚悟を決めさせたかった」と語られており、原作から展開の変わった劇場版だからこそなせる荒業をこなしてます。
PC版発売当時からの桜ファンで原作者がひくレベルの分厚い脚本を出してきたHF3部作監督である須藤監督と違って、荒井監督は初監督かつ仕事が決まってからプレイされたそうなのですが、奈須さん小太刀さんとの相談があったとはいえファンが見たい・ファンが膝を打つようなエピソードの取捨選択が出来るのはもはや脱帽としか言いようが無いです。
荒井監督他、スタッフや関係者の皆様、マジでお疲れ様でした。
 
1500年の放浪の果てに前編で人間性を取り戻したベディヴィエールが、後編のこのやり取りを経た上での最後に語る「円卓を代表して、貴方に感謝を」の重さったら無いですよ。最後の聖剣を返すやり取りに関しては、個人的に原作越えたはあるんじゃないかと思います。奈須さんが言及していた「ラストの美しさ」含めて。
 
音楽に関しては前編同様、ゲーム及びたぶんドラマ版GoAで流れてた曲のアレンジ含めて最高でした。何度も擦るけど過去作で起用されてる芳賀敬太さん深澤秀行さんが関わってくれてるってだけでもめちゃくちゃありがたいことですからね……。
 
 
こんな情勢なので客入りが怪しいですが、なるべく回数見に行けたらなと思います。
 
以下とりとめもない感想箇条書きです。
 
・マシュとランスロット戦の徒手戦闘、良いですよね
・個人的にマシュはずっと種田さんの声が残ってて、6章やった頃はまだ種田さんで……高橋さんのマシュが遠く感じたんですが、このランスロットとの戦いを見てようやく自分の中の種田マシュが椅子をあけてくれた気がします。長かった。
・剣使って戦うトリスタンがかっこよすぎる
・ロンゴミニアド使った時背景空想樹だよね
・アッくんランスロ戦ケレン味強すぎるし急にランスロットは馬乗り始めるし何を見ていたのかなんだったんだろうな
・ガウェインがこわすぎる
・レジェンドオブキング・アーサー?の部分はしっかり見たいなあ
 
早くきのこポエムが見たいよ~!