ベディヴィエールの涙と「花の慶次」奥村助右衛門の話

こんなタイトルでブログ記事書くことになるとは思わなかった。
 
先日「花の慶次」を読み終わった。画面の向こうの皆さんは「花の慶次」はご存知だろうか。『パチンコで聞いたことある!』そう、それです。よっしゃあ漢唄のあれです。
割とタイトルは有名なんですが、実は読んだことが無くてコレを期にとゲオでがさっとレンタルして読破いたしました。いやぁ名作でした。
 
話は変わりますが、こんな一文をみなさん覚えてますか。
 
 
ベディ担当の天空すふぃあさんも空の境界六巻の単行本作業中だというのに
 
「ベディの泣き顔が欲しいんだ。花の慶事の奥村すけえもんが泣いているような……という表現でわかる? え、うそ、わかってもらえた!?」
 
 こんなお願いに応えてくれたのです。

竹箒日記 : 2016/07

 
大人気シナリオライター奈須きのこさんの日記、竹箒日記の2016年7月30日の記事より引用させていただきました。
花の慶次」を読む前の自分は「へーなんかきのこがまたよくわからない例えで発注してるなあ」くらいの気持ちで読んでいたのですが、読破したところ「なんちゅう例えで発注してるんじゃオイ!!!!!!!!!」とビックリしてしまったので、この驚嘆をおすそ分けしたい一心でこの記事を書かせていただきます。
 
以下「花の慶次」及び「Fate/GrandOrder第一部六章 神聖円卓領域キャメロット」2作品のネタバレがあります。
 

 

 

奥村助右衛門について

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集英社/「花の慶次-雲のかなたに-」1巻より
 
かつては18歳で慶次の義父である前田利久の居城荒子城の城代家老をつとめたことがあり、柴田勝家をして「沈着にして大胆」 と驚かせしめた剛の者。慶次とは幼いころからの莫逆の友。末森城の戦いでは城主として助太刀の慶次とともに獅子奮迅の働きを見せた前田家の柱石。
 
奥村助右衛門(以下、助右衛門)は主人公・慶次の幼馴染であり大親友です。作中では美丈夫として描かれてまして、ゆるくウェーブがかった髪の毛と比較的線の細い美男子として描かれてますが、この男、初登場時に目の前で死んだ部下の腹を捌いて胃袋の中身を確認し、兵糧の采配を決めたり、常人ならとっくに倒れてるはずの怪我で動き回り、果てはなんと慶次と一緒に塀の上から敵に小便を浴びせるというビックリの行動もやってのける武将です。
 
更には慶次の処刑を決めた前田利家に対して「城を守り死んでいった死者たちの為に慶次を殺さないでくれ、さもなければ腹を切る」と豪胆な交渉を持ちかけます。「花の慶次」はほぼほぼ創作の話なんですが、史実の助右衛門も名高い名将だったそうです。すごいですね。
 

そんな助右衛門が涙したのはなぜか

奥村助右衛門は妹、加奈のことで悩んでいた。男勝りの剣の腕を持ち、24歳にして未婚。さらに加奈が惚れているのは慶次だった。加奈はおまつの名を借りて慶次に手紙を書き、心のうちを打ち明けるも、慶次のおまつを思う気持ちは揺らぐことはなかった。

花の慶次公式サイト/花の慶次の年表

 

助右衛門には加奈という妹がおり、兄に似て見目がよく、そして義に熱く大胆な性格をした娘です。幼馴染である慶次を好いているが、慶次の心には利家の妻・まつへの思いがありました。それを知っている助右衛門は「慶次はやめておけ、おまつ様以上の女になれない」と釘を刺しますが「そんな噂は信じない!」と加奈は一計を案じます。それが、まつの振りをして手紙を書き呼び出すことでした。
しかし、呼び出された慶次は加奈を受け入れることはありませんでした……。
 
ひとつ恋破れ、これにて終い……かと思いきや。この時、加奈がまつの振りをして書いた手紙が波乱を呼ぶことになります。なんと、まつの不貞の手紙として前田利家に届けられることとなったのです。加奈は不始末を詫び、自害しようとしますがそれを助右衛門が止め複雑な立場とその心境を静かに語ります。
 

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集英社/「花の慶次-雲のかなたに-」9巻より
 
助右衛門は慶次と共に川辺で酒を飲み交わします。言葉は交わさず、慶次は全てを理解していました。
「親友になら斬られても良い」
その気持ちで親友、助右衛門の一太刀を浴びました。しかし、着込み(鎖かたびら)をつけていたため「こっちをやれ」と脇差しで首を斬るように促します。
 
「太刀で斬り損じて脇差しで斬るのかね」
「いかんかね」
「お…俺がそれ程お主を斬りたいと思うか」
「又左に言われたのか」(又左とは前田利家のことです)
「ちがう。加賀藩士とその家族のためだ!」
「そうか」
 
「だが…もういい…
もうおまえを充分斬った
年来の友を斬るなど生涯に一度のことだ
やり直すことなどできぬ」
 

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集英社/「花の慶次-雲のかなたに-」9巻より
 
そして助右衛門は静かに涙しました。
 
「助右衛門が泣いた。
加賀随一の武将が泣いた。
慶次を斬り、己れも死ぬ覚悟だったのだ。
その機会を逃した助右衛門は正に死に場所を見失ったいくさ人。
男が泣くには充分な理由であった。」
 
前田藩の家老である助右衛門にとって、加賀藩士を恥晒しにすることはできない。
加奈の兄として慶次の友として、起きてしまった不始末の責任を負わなければならない。
そのためには慶次を斬り、自分も腹を斬ることで詫びる他ない。
 
その一心で慶次に浴びせた一太刀が、たまたま着込みを着ていたせいで殺すことができなかった。じゃあ、もう一度殺せるかーーー。
 
名将と名高い助右衛門が精神的にこれほど追い込まれた思いについては、筆下手な私にはうまく表現しきれません。伝わらなかったらごめんなさい!!もうマンガ読んでくれ!!
 
 

ベディヴィエールが涙するシーンについて

 

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TYPE-MOON,ANIPLEX,ディライトワークス/ Fate/GrandOrderより
 
さて、冒頭で引用しました件のベディヴィエールの泣いているシーンについて、おさらいします。第16節決戦前夜。主人公を探すマシュはたまたま一人涙するベディヴィエールを見つけてしまいます。
余談ですが泣きのシーンはここの一度しか使われてないです。きのこ、いつもそういうことする……。
 ここでベディヴィエールは、旅の果てを迎えることへの恐怖を語ります。彼の過ごしてきた途方のない時間を慮れば、無理もないことです。
 
"罪人の約束を叶えよう。
 これが本当、正真正銘、最後の機会だ。"
"でもいちおうう確認はするよ?
 戦いの結果はどうあれ、キミはこれで死に絶える"
「……そうか。
 これは私に与えられた、旅の果てか。」
「(砂の大地に一歩踏み出す。
  何を犠牲にしようと、私は今度こそーーー)」
「(……今度こそ。
  この手で、我が王を殺すのだ)」
TYPE-MOON,ANIPLEX,ディライトワークス/ Fate/GrandOrderより
 
あの日、自分が正しく聖剣を湖に返していれば。
王を殺すための贖罪と責任、千年以上にも渡る果ての無い旅。
王を殺して、自分も死ななければならない。
はたしてそれは正しいことなのか、けれどやらなければならない。
たった一人で向き合い摩耗しきった精神から溢れる涙。
 
「一人の士が、最も敬愛する人間を殺せなかった事に追い込まれ、涙する」
 
ベディヴィエールと奥村助右衛門。一見何も関係が無いし関係を見出すのはバグ技というより幻覚の類なのですが、そんな重ね方をしながら奈須きのこ氏は天空すふぃあ氏に立ち絵の指示をしたのではないか、と思うとベディヴィエールというキャラクターの見え方が少し変わったように思います。
 
私の拙い文では伝わるものも伝わらないと思うので「花の慶次」を読んでください。読めばわかりますから!!(ほんとか?)
 
ちなみに余談ですが、このあと助右衛門と慶次は一切会話しないのでこの顛末がどうなったかが漫画だと不明です。でも友達辞めたわけではないみたいです(同じコマには出てくる)
この騒動に関しては消化不良のまま終わるのはどうかと思うんですがそれはそれとして本当にこの下りはマジで打点高いです。
 
後編がこれ以上延期しないことを祈ります。
ではまた……